東京, 2022年7月1日 - (JCN Newswire) - グローバル・コンサルティング・ファームのアリックスパートナーズ(以下、当社)は、世界の自動車産業界の展望についてまとめた調査レポート「2022年版グローバル自動車業界アウトルック」(以下、本調査)を発表しました。
本調査では、半導体を含む部材の供給不足が自動車業界に及ぼす影響は、2024年まで続くと予想しています。また、完成車への需要は旺盛な状況が続くものの、自動車メーカー(OEM*)の事業効率が悪化するため、OEMとサプライヤー**の利益プールは逆転するとみています。さらに、主要OEMおよびサプライヤーはバッテリー式電気自動車(BEV)向けに5,260億ドルの投資をコミットしているものの、内燃機関車(ICE)からBEVへの移行において供給面でのコストを積極的に管理できなければ、700億ドルのコスト増に見舞われると予想しています。
注:*OEMは2021年世界の売上トップ25社、**サプライヤーは2021年世界の売上トップ50社を対象としています。
- 半導体不足は2024年まで自動車供給に影響を及ぼし、短期的には地政学的変動とパンデミックが変動要因となるとみています。最近は新車の価格競争力が高まり自動車メーカーの利益が拡大しています。自動車の需要は依然旺盛なため販売増につながるものの、在庫が限られるため、いずれはメーカーの事業効率の悪化と回復コストの増大を招くと考えられます。
- ウォール街は2022-23年の自動車業界の業績見通しを強気にみていますが、OEMがサプライヤーに自らの非効率を押し付け、値上げをさせないため、サプライヤーが弱体化していることをアナリストは認識すべきです。原材料費上昇の影響はOEMとサプライヤーの業績にまだ十分に反映されていません。サプライヤーは現在苦境に追いやられつつありますが、OEMはBEVへの移行において彼らとは依然パートナーシップを維持しなければなりません。今後、原材料価格が下落して、OEMが在庫を積み上げ始めると価格決定力を失うと見込まれ、収益の二極化が続くという予想は緩和されるはずです。
- 本調査では、Tier1以下のサプライヤーについて10年以内にICEからBEVに移行させるためにかかるコストを700億ドルとみていますが、移行プロセスをより積極的に管理することで40~60%のコストを削減できることがわかりました。BEV移行に伴う課題としては、BEVの原材料コストがICEの場合より大幅に高いこと、座礁資産の対応が必要となること、BEVの大量普及まで比較的長い立ち上がり期間がかかること、BEV時代に対するサプライヤーの準備不足などが挙げられます。
- 世界のEV(BEV+PHEV)販売台数は2021年に大幅増加し、市場シェアも8.3%まで高まりました。本調査では、EVの割合は全ての主要販売地域で2028年に33%、2035年までには過半数(54%)を占め、地域別でみると北米62%、中国64%、欧州85%に達すると予測しています。
- BEVへの移行においては充電がクリティカル・ギャップ(最大の難問)として浮上しています。充電を事業として成り立たせるためには、インフラへの投資と利用率の向上が必要となります。
- 本調査で対象となったサプライヤーの一部は ICE 関連事業の縮小や売却を始めている一方、OEMによるBEVパワートレイン内製化の加速により、サプライヤーによるBEV パワートレイン生産割合は28%程度に留まることが判明しました。ICEエンジン供給体制が変曲点に近づいており、サプライヤーではICEとBEVの事業分離やICE事業の提携など新たなビジネスモデルを構築する必要があるとみています。
新車価格は堅調に推移しており、インフレと金利上昇が消費者の重荷になっているにもかかわらず、旺盛な需要と雇用の安定を背景に、OEMは生産可能な車種ごとに買い手を見つけることができ、継続して利益を確保できるとみています。消費者は移り気で、受け身ではありますが、自動車市場について今は希少性の観点から見ているのです。また、中古車価格は、「いくら払えば買えるのか」より「買えるのか」という疑問の方が大きく、消費者が「買うことができる」と感じるようになるにはまだ程遠いことを示唆しています。
当社では、市場におけるこのような需要超過のレバレッジは、短期的にはOEMの収益性向上につながっても、長期的には持続不可能とみています。供給不足とそれに伴う頻繁なスケジュール変更は、生産台数1,000台あたりの従業員数の急増(サプライヤーは2020年第3四半期比で31%増、OEMは42%増)に見られるように、事業の効率悪化をもたらします。いずれ需要と供給が均等になると在庫が積み上がり、価格決定力を失う可能性があります。BEV向け投資拡大の圧力を受けている上に、サプライチェーンに弾力性を持たせるための追加コストが、さらなるプレッシャーとなっています。
当社の最新の予測では、2035年までに世界の主要地域でBEVが主流となり、ICEを上回ると見込まれます。しかしながら、BEVは ICEに比べて使用する半導体も多く、原材料費が125%も高くなり、部品不足と価格上昇など、BEV市場の成長には課題が多く存在します。BEV時代へ向けては、OEMもサプライヤーともに供給面にかかる準備不足が露呈しています。
新車供給が限られる中で、消費者の多くが中古車市場に向かっているものの、OEMは 2021年には利益が2018年と比べて68%増加、EBITDAマージンも2.1%ポイント上昇しました。同時に、OEMは純負債を1,030億ドル(11%)減少させています。アナリストや投資家は、こうした追い風が今後も続くと予想しており、2023年までに業界の利益が近い将来2倍の892億ドルになると見込んでいます。
EBITDAマージンをみると、OEMは2021年に12.6%と前年比で3.2%ポイント上昇した一方、サプライヤーは10.8%と同1.7%ポイントの伸びにとどまりました。また、2021年のEBITDAマージンはOEMでは過去10年間の平均値10.3%を初めて上回った一方、サプライヤーは過去10年間の平均値11.4%を下回る結果になりました。さらに、2018年には業界利益473億ドルのうち59%がサプライヤーに帰属していたと分析できますが、わずか2年の間にその方程式は完全に反転し、OEMの利益が131億ドル増加し、サプライヤーの利益は136億ドル(49%)減少しました。
BEVの普及が加速し、インフラへの需要がさらに高まるにつれて、投資需要は雪だるま式に増加するとみています。当社の分析では、現在、BEVのバイヤーはアーリーアダプターに留まっていますが、2024年までにBEVへの参入企業は増加し、トップOEMのすべてのボリュームセグメントを網羅するようになり、新規バイヤーは購入価格、所有コスト、充電利便性をより重視するようになるとみています。その中で、充電インフラを見ると、例えば、10年後には米国だけで480億ドルのインフラ投資が必要となるのに対し、現在までにわずか110億ドルしか投入されていないのが実状です。
BEVは将来、すべての主要市場でICEを抜いてシェアの過半数を占めるようになりますが、それは2035年までの見通しであり、この先10年、BEVはまだICE市場が支える規模程の恩恵を受けるには至らないとみています。
本調査によると、OEMのサプライベースにおける ICE から BEV への移行には、2030 年までに700 億ドルのコストがかかることがわかりました。当社では、OEMとサプライヤーがそれぞれBEVへの移行に積極的に取り組むことで、このコストの40%から60%を節約できると推定しています。可能であればリスクは避けたいですが、今後懸念されることとしては、サプライヤーが苦境に陥ること、予定外の緊急時対応コストが発生すること、再評価やツールの複製に関連する費用が増加することなどがあります。
サプライヤーは特に脆弱であることも判明しました。バッテリーやテクノロジー関連の新規参入者が競合企業となり、さらにOEMが工場や人材を BEV移行に向けて、新しいコンポーネントを自社生産することを選択すると、1台当たりの生産量が減少するからです。その結果、サプライヤーはBEV 用パワートレイン生産額の 28% しか参入できない分析となっています。そして、このような事態は既に発生しています。当社のサプライヤー・エグゼクティブ調査によると、多くのサプライヤーが、ICE関連ビジネスユニットの縮小や売却を計画していることが判明しているのです。
また、過去4年間、欧州ではICEとハイブリッド車の開発プログラムが着実に減少し、北米でも横ばいになっていることから、ICEエンジンの開発プログラムが変曲点に近づいていると予測しています。2024年から2028年の間に、それぞれ少なくとも33%と12%減少すると見込まれます。
OEMとサプライヤーは、ICE から BEV への移行を促進するために、事業分離の可能性も含め、革新的なビジネスモデルを模索する必要があるとみています。
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